自然と暮らしとものづくり

福島県奥会津三島町2017年度第1期生活工芸アカデミーの日々を綴ります

山ぶどうのひとり言

**************************************************************

爺や 爺や

俺、学校なんか出てねぇから

俺、これからしゃべっから、字さ書いてくんつぇ

爺…まで まで 今、鉛筆と紙持ってくっから
  そんじゃ、字に書くから、しゃべってみろ。

 

俺は奥山で育った山ぶどうの木だ

年はなんぼになったかわかんねぇが

いつのまにか背はのびた

俺んどこさ遊びに来るのは木ネズミだ

登ったり下ったりして遊んで帰って行く

今年も白い栗の花がいっぺぇ咲いた

栗の木にからまりながらきれいな花を見ていたら

町から来た爺さまが俺を引っぱり下ろした

「おめぇ達、こんな山ん中にいねぇで、町さあいべ。

 町の人たちはおめぇ達の来るのを待ってんぞ」

爺さまは俺を町さ連れてきた

 

爺さまの仕事場にはでっけぇ籠がいっぺぇある。

いろいろな長さに皮を切って揃えると

中には、みじけぇのも出る

爺さまはそれをぶん投げねぇで

俺みてぇなちいせぇ籠を作る

爺さまのどこさ来るおがぁ達が

「めげぇな、めげぇな」と

俺を取り上げて撫でてくれる

あの山の中にいた俺が

なんだかきれぇな籠に生まれ変わって

町の人にめごがられるなんて思いもしなかった

爺さま ありがとうな

でも、俺んどこさ遊びに来てた木ネズミは

今も達者でいんだべかなぁ

 

************************************************************

 

小さな小さな山ぶどうの籠の中に入っていた物語に惹かれ、

工人のおひとり、小柴芳夫さん(89歳)を訪ねてきました。

 

f:id:seikatsukougeiacademy:20170710212346j:plain

 

かつては三島町の桐を使った木工から始まり、

山ぶどうのかごバッグを作られていました。

現在は材料採取に山に入るのが難しくなったこともあり、

限られたわずかな山ぶどうの材料を使って、小さな籠を作られています。

 

f:id:seikatsukougeiacademy:20170710212451j:plain

 

「キレイなものではなくて、多少ズッコケたような、

“素朴な作品”を見抜ける感性を育てろ。」

皺がいっぱい入った武骨な手で、小さな籠を優しく撫でながら微笑む

芳夫さんに諭されました。

 

f:id:seikatsukougeiacademy:20170710212549j:plain

 

たくさんの工人さんが山ぶどうの籠を競って作るようになる頃、

芳夫さんが気になっていたのは、端材を捨てたゴミ箱だったそうです。

現在では山ぶどうの素材が採れなくなっていますが、

かつて山に入ればどこでも山ぶどうが採れたころ、

籠を作るために丈夫でしなりの効く良い部分以外は

すべて捨てられてしまっていたそうです。

 

「なんだか声が聞こえる。寂しいような…可哀そうなような…」

 

芳夫さんには、山から降ろされて、なんの用もなさずに捨てられていく

山ぶどうの声が伝わってきたようで、その端材を使って作り始めたのが、

この小さな籠でした。

上記の山ぶどうのひとり言は、芳夫さんに届いた

山ぶどうからのメッセージです。

 

f:id:seikatsukougeiacademy:20170710212705j:plain


深い山の中で育った野性味満天の素朴な山ぶどうが、

用をなさない短い端材ばかりで出来上がった小さな小さな籠が、

ひとつ、またひとつと、キレイなご婦人方に可愛がられて愛されて

旅立っていく。

 

f:id:seikatsukougeiacademy:20170710212412j:plain

 

そんな様子を見るのが何より幸せなのだと微笑まれていた芳夫さんの

お姿から、あぁ、この小さな籠に惹かれる人は、きっと山ぶどうと芳夫さんの

愛を受け取った幸せ者なんだろうなぁと、羨ましくなってしまいました。

 

f:id:seikatsukougeiacademy:20170710212105j:plain

 

ものづくりがよっぱになる(会津の方言で「飽きる」)と取り組む、

お家の周りの畑もご案内いただきました。

おひとりでやっているとは思えないような広大な畑で、

そんなに作ってどうするのくらいのお野菜を育てていました。

 

ものづくりも畑も同じ。

向き合っているものが何を語りかけているのかをきちんと感じ、

大切に大切に温めて育ててあげれば、きっとどこかで誰かに愛されるはず。

 

f:id:seikatsukougeiacademy:20170710212229j:plain

 

今だけ、刹那的な価値を求めるのではなく、

前後に、周囲にきちんと目を向け、持続的な価値を生み出せるような、

そんな工人になりたいなぁと、芳夫さんから大切なことを訓えていただきました。