自然と暮らしとものづくり

福島県奥会津三島町2017年度第1期生活工芸アカデミーの日々を綴ります

能と美学

能って、一度観たことあるけど、なんとも単調で、意味不明で、

途中から記憶が、、ない。

教養浅はかなわたくしは、未だ能への理解がありません。

 

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三島町で活動する能面師さんのお家にお邪魔してきました。

お家の前にはたくさんの樹が積み重なっています。

先日入荷した大量の桜の木を、ひとつひとつご本人が確認しながら

製材していくそうです。

どんなに小さな端材でも、「良い樹」は愛着を感じて捨てられない。

どんどん溜まっていく木材で溺れそうになっている工房から、

たくさんのお面や仏像が生まれていました。

 

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能面師さんは大学生時代経済を学び公務員へ、

全く能やものづくりとは関係ない世界を生きていました。

若いころはアメリカへの憧れが強く、ロックを愛し、

ビートルズに熱狂、分かり易くインパクトのある西洋文化に

夢中になっていたようです。

西洋音楽の「律」に没頭するほどに、日本の音律の奥深さに惹かれ、

能楽と出逢うことになりました。

 

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床の間には掛け軸、立花、香炉が、静かに飾られています。

能面を表に出すときには、場を整えるところから。

と、白檀の香木を削って香を焚いてくれました。

うっとりしてしまう柔らかい空気感。なんとも安らかで、贅沢。

 


何もないところで挑戦がしたかった。

 

先入観も、固定概念も、誰も自分を知る人がいないところで、

ゼロからの挑戦がしてみたかった。

堅い家柄から安定した職に就く中で、

このままの自分では違うという危機感から飛び込んだのが、

能面を創るという世界でした。

 

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究極の美を求め、自然との調和を求め、30歳で三島町に移住。

なぜ三島町だったのか?

 

深い雪に覆われ、厳しい環境の中逞しく生きる三島町の人は、

「本当に美しいもの」が何かを知っていたと言います。

自然の摂理を身を持って理解し、生き抜く知恵と力を

備えた三島町の人は、能面師さんにとって、生き方を学び、

技と感性を鍛え、導いてくださる存在だったそうです。

 

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深い深い雪の中で、暮らしのあらゆるものを自然からいただいてきた

三島町には、生まれや育ちには関係ない、

本質を見極める力が備わっていたのかもしれません。

自然の厳しさを、美しさを、尊さを、暮らしの中から知っているからこそ、

研ぎ澄まされた五感で美しさの本質を受け取る。

そんな三島町の人に惚れ、魅せられて、助けられて今があるそうです。

 

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能面ひとつの表情を生み出すために、休む暇なく勉強の毎日です。

自身で能の演じ手となり、雅楽を嗜み、

日本の歴史を紐解き、物語を理解し、全体を網羅して初めて

その面の表情が浮き立ってくる。

すでに存在する歴史や文書は、誰かの考察や思想というフィルターを通して

「編集」されたものである。

だからこそ、本質的なものが何なのかは、正しいことは何なのかは、

ご自身で勉強し、納得するところまで理解を深める。

そのため、書斎には楽譜、茶、書、華、神話、哲学…幅広い分野の古文書が

たくさん積まれていました。

 

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面を作るためには、能の背景にある世界観を知らなければ本物には至れない。

表現を磨くためには能楽と向かい合うだけではなく、

膨大に連動する要素、属性、機能を細分化して網羅していくという

アプローチがあることを学びました。

 


対象となる「良いもの」を作る技術は前提として、

作り手自身の美学と哲学までも乗せて、相手に届くように創るということ。

同時に、お手軽に知識や情報が得られるからこそ、

それを選択する側の教養も求められて来るようになるのだろうと思います。

本物に正解はないし、限もないので、どこまででいい、どれがいいと

判断するのはそれぞれの自由。

 

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編み組細工と分野は違えど、三島町で輝くひとりの工人さん。

ひとつの面に向ける情熱を感じられたことがうれしかったです。

(発展途上ですが)技術を駆使して、自分の想いやセンスを生かすに加え、

編み組細工の歴史、暮らし、用途、思想、未来までも取り込めるような

作品を、作れるようになりたいなぁ。

がんばります!!